タイのカルチャーと音楽にハマり、タイに移住したというZ世代男子ライター、トムヤム亜久津 氏。
彼が週に1回発信しているブログ「まじかよ、タイドラマ!タイポップ!」は2021年から続いて今に至り、タイのエンタメ、特にT-POP/タイポップに関して圧倒的な情報量とタイムリー性を持っています。
タイナウ編集部は、そんな彼に、T-POPとは?タイポップとは?そしてT-POPの今と魅力について、いろんな角度からお話を伺いました。
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・「T」の前には、「J」と「K」?
・アイドルだけではないタイの音楽シーンの深みと、それが生まれた環境とは?
・俳優と音楽の関係
・T-POPの国際的な立ち位置は?
・トムヤム亜久津おすすめのT-POP探求ツールたち
・注目のT-POPアーティスト
さあ、本編にまいりましょう!
──T-POPが盛り上がってきて、どんどんアーティストが生まれて海外にも進出しているイメージがありますが、このジャンルはどのように育ってきたのでしょうか?
タイにもともと伝統音楽や民謡として親しまれていた「モーラム」や、日本で言うと演歌的な歌謡曲として親しまれてきた「ルークトゥン」という音楽があり、この辺りはタイの音楽的感覚の根底に影響があると思います。
そこに、エンタメ要素、産業的な部分を含め、海外のPOPミュージックがどんどん影響してきてT-POPが形成されてきたのではないでしょうか。
もちろんタイの音楽シーンにおいて洋楽の影響はありましたし、一部の層は洋楽を聴いていましたが、大きかったのがJ-POPとK-POPの存在だったと思います。
J-POPは、90年代後半のビジュアル系や渋谷系から、2010年頃までのPOPミュージックが特に人気を博し、大きな影響を残しました。
ビジュアル系の中でもX JAPANは別格です。その存在感は絶大で、今でも多くのアーティストに尊敬されています。
その後、空前のK-POPブームが生まれ、TWICEやBLACKPINKなどが大人気になります。特にBLACKPINKはメンバーのリサがタイ人であることから、国民的な人気と誇りになっています。
エンタメ業界としても、K-POPの世界的成功から、意識的にK-POPの先進性、かっこよさを表現するグループを輩出しようという動きが強まりました。
T-POPの系譜の’超’単純図解
──アイドルグループも次々生まれていますね。一方で、タイのインディーズバンドのようなミュージシャン、言ってみれば音楽職人的アーティストのレベルもとても高いように感じますがいかがですか?
はい、その辺り、音楽職人的なアーティストもT-POPのひとつと考えてもよいと思います。タイのロックバンドやインディーズバンド、オルタナティブ系のグループなども非常にレベルが高いです。
こういった音楽の素養の元には、タイならではの音楽の身近さがあると思います。
タイでは、普通のレストランやバーでとてもカジュアルにライブ演奏が行われていて、音楽への垣根がとても低いんです。それも、プロだけではなく地元のアマチュアバンドだったり、演じる側も楽しむ側も、非常に音楽や、ダンスにもカジュアルに接する機会に恵まれています。
──先日、Mirrr(マー)来日の際にインタビューさせてもらいましたが、同じことをおっしゃっていました。音楽に接する機会が多い上に、特に最近は音楽づくりが気軽にできるツールが増えたことで、たくさんの人がクリエイトできる環境にある、と。
はい、全体的な音楽レベルの高さはそういった所が要因かと思います。
さらに、タイの国民性として、新しいことに挑戦するモチベーションが高いという点もありますね。
特にDTM(デスクトップミュージック)は個人でも制作ができるので、ひとりで楽曲制作からサウンドづくり、発表までやってしまうアーティストも増えています。
──俳優の音楽活動も非常に活発ですよね。
近年、俳優が楽曲をリリースするのが活発化しています。イベントでのパフォーマンスや、YouTubeでのコンテンツ化を見据えての動きですね。俳優がユニットを組んで楽曲をリリースすることも増えています。
日本でも音楽活動をしている俳優は多いですが、タイの方が積極的で一般的な印象です。
キーワードは「緩さ」と「のびのび感」?
──レベルが高いPOPミュージックが世界各地にある中で、移住まですることになったT-POPにしかない魅力はどんな所ですか?
K-POPと比較するとわかりやすいかと思います。
半端じゃない練習量と緊張感でものすごいクオリティで仕上げてくるK-POPに対して、T-POPはいい意味での「緩さ」があるんですよね。もちろん歌もダンスも上手いんですが、どこか「のびのびしている」というか。ダンスが完璧に揃っていなくても、それもいいじゃない、「完璧じゃなくてもいいじゃない」ーーという感じがあって、自分にはすごく心地よかったんです。
緊張感のあるパフォーマンスは、鑑賞する側も緊張感を持ちますよね。アーティスト側もファン同士も、割とのびのびしていてストレスフリーな感じがあって、そこが大きな魅力ですね。
「マイペンライ(大丈夫、気にしない)」という言葉がありますが、タイの国民性やマインドが表れていて、それがエンタメにも通底していると思います。
──T-POPは国際的にはどんな感じで広がっているのでしょうか?
日本ではここ1~2年で関心が高まり始めた実感があります。
韓国はK-POPの国ですしまだ関心は限定的ですが、例えば「PiXXiEのメンバーがかわいい!」みたいな感じで個別のアーティストが話題になることがあります。
それから、ラオス、インドネシア、フィリピンなど、東南アジア諸国への影響が大きいですね。
ラオスはタイ語とラオス語が似ていてタイのエンタメは人気なんです。
BLドラマの人気が高くて、俳優経由でT-POPに関心を持つ人も増えています。
──T-POPを見つける、楽しむための情報源は何がおすすめですか?
コンテンツそのものと情報を組み合わせて発見し、楽しむのがおすすめです。
●音楽ストリーミングアプリ
→タイのトップ50チャートや新曲プレイリストをチェックして気になったアーティストを深掘り
●YouTube
→気に入ったミュージックビデオを見つけて、関連動画で新しい発見を
●レーベルアカウントのSNS
→プロデューサーを追いかけるより、レーベル発信の情報を調べる方が、情報が早く効率もよい。旬なトピック、注目の情報が見つかる上に、ユーザーの反応もわかる
──最後に、トムヤム亜久津さん注目のアーティストは?
●BUS(バス)
この夏いち推しで、最近は電車の中などいろんな所でBUSの動画を視聴している人が増えた印象です。
オーディション初期の体育館パフォーマンスと、最終ステージの仕上がりとのギャップがすごい。そんな“アメイジング・タイランド”な展開も楽しめます。
●4EVE(フォーイブ)
まだ手が届く、という所が魅力でしょうか。最近は北米寄りのテイストになってきていますが、「タイから見た日本のカワイイ」を表現しているコンテンツがあったりして、親近感が持てます。
●NEVONE (ネフワン)
癒しとかわいさが、個人的にタイらしさの極致という感じで、「まだ完成していない魅力」がたっぷりです。
がんばって!って応援したくなるような感覚ですね。「I Mean」という曲がおすすめです。
──今日はとても勉強になりました。ありがとうございました!
[教えてくれた人・プロフィール]
トムヤム亜久津(とむやむ・あくつ)
タイエンタメライター。1997年生まれ、東京都出身。北海道大学卒。タイの音楽とカルチャーに魅了され、2023年に単身タイ移住。J-POPとK-POPを通ってきたZ世代の視点から、T-POPの魅力を発信。
[文・構成/タイナウ編集部]