新旧問わず、音楽に親しんできたタイナウ編集部ワタナベが、未体験だったタイポップを聴いて綴る音楽鑑賞記。「サワディーワタナベ」は未知のタイポップへのサワディー=こんにちは のご挨拶です。
今回聴いたのは、タイのラッパー/シンガー、MILLI(ミリー) の「ONE PUNCH」です。
この曲、すごいから本当に聴いてほしい!
自分が聴いていいなあ、と思ったと同時に、多くの人に、好きなジャンルを問わずにぜひ聴いてほしいと思う破壊力抜群の1曲です!
MILLIはたいていはラッパーと紹介されているのですが、以前「億超えT-POP」で紹介したこちらの曲では歌とラップの間のような独特の魅力を発揮していました。音感がいい、リズム感がすごい、閃きやアドリブ力が光る… 才能の固まりのようなミュージシャンだと思いました。
そしてこの「ONE PUNCH」はとことんハードなラップ芸術を聴かせてくれます。
タイの音楽シーンの奥行をまざまざと見せつけられるようなスキルを満喫できます。
まず目を見張るのは高速ラップ/マシンガンラップと呼ばれるラップの速さです。
ところが、MILLIのすごさは速さだけではありません。
これだけ速いのに「リズム横断型」のラップをしていることです。
ラップはリズム表現のヴォーカルスタイルなので、もちろんリズムに合わせてフローを組み立てるのが基本形だと思います。
ところが、とんでもないレベルになるとリズムに合わせてラップする範疇を超えて、リズムを横断するというかはみ出るというか、わざとリズムにはまりきらない単語選びをする人がいます。
MILLIのこの曲を聴いて、「すげえ、ちょっとエミネムを思い起こさせる!」と感じた矢先、歌詞になんとエミネムが出てきます!
「Eminem said MILLI rap it. I’m a whale shark, you’re just catfish」
どんなニュアンスでしょう、「MILLI、ラップしてみろよ。んー、俺はジンベエザメ、お前はナマズくらいだな」
という感じでしょうか。
そんなかわいい謙遜ユーモアを入れてくるあたり、むしろ自信と余裕すら感じさせます。かっこいい!
リズム横断型のラップは説明が難しいのですが、まさに上に挙げているエミネムでそれが堪能できるのはデビュー曲、「My Name Is」かもしれません。
(高速ラップではないけど)
ラップをあまり聴かない人からすると「ペラペラしゃべってるだけじゃん」って思うかもしれませんが、このリズムに乗せるところとはみ出るところのメリハリとバランス。これがデビュー曲ってどうかしてるよって思いますが、歌詞でわざわざ取り上げている所を含め、MILLIはこのノリを感覚的に体得して取り入れたのだと思います。
Eminem – My Name Is
ということで、このスキルにはフォロワー多数の楽曲視聴リアクションYoutuberも感服です。
さて、スタイルについての話に続いて、この曲のストーリーです。
「ONE PUNCH」という設定とMVの設定は決して遊びではなく、MILLIは実際にムエタイ選手なのです!
この説得力。
それを知るとさらに楽しめる所、イントロです!
イントロのスローめなフックの部分。ここで、ここはまさにMILLIがウォームアップでぴょんぴょん軽くジャンプして軽めのシャドーボクシングをしている姿がありありと目に浮かびます。
こちらのロスアンゼルスでのライブ動画ではリアルムエタイ選手とのピースフルなプチスパーリングショーも楽しめます。
さて、もう1つ大事なことです。これはタイナウがMILLI来日ライブの時に直接インタビューで本人に聞いたことですが、この曲のインスピレーションの元がK-POPの人気グループ、XGのこの曲だということ。こういう感じで刺激し合っているんですねえ。
こっちもかっこええ…。
最後に、ラップ技術話ついでの余談ですが、ほんのちょっとだけリズムに対してラップを遅らせることでグルーヴをつくり出す「レイドバック」という技術もあります。
これに関してはJAY-ZやNasなんかが芸術的です。
タイのアーティストのラップはかっこいいと常々思っていますが、MILLIを含め、今後どんなパフォーマンスが見られるかと思うと楽しみ&末恐ろしいですね。
[文・構成/タイナウ編集部 サワディーワタナベ]