新旧問わず、音楽に親しんできたタイナウ編集部ワタナベが、未体験だったタイポップを聴いて綴る音楽鑑賞記。「サワディーワタナベ」は未知のタイポップへのサワディー=こんにちは のご挨拶です。
タイポップ/T-POPのどまん中、のダンスボーカルグループが続いたので、タイのミュージックシーンの奥深さの一角を担う、オルタナティブロックのアーティストを取り上げてみたいと思います。
今回は、タイのオルタナバンド、YONLAPA(ヨンラパ)を紹介させてください。
「Let Me Go」と「Why Why Why」の2曲です。
YONLAPAは、最近ではフジロック2025でも日本の音楽ファンに鮮烈な印象を与えて話題になっています。
https://fujirockexpress.net/25/p_1118.html
本人たちはオファーが来た時、「あの名門フジロックに!?」という感じで驚いたといいます。
さあ、曲です。
まぁ~この全てがエモいこと!
PV始まってすぐ、ポップでノスタルジックなバンドサウンドと共にハレーション気味の、フィルムカメラを通り越してトイカメラ的なローファイな映像。
画角も今は普通16:9なのに対して4:3ですね。
これだけでもレトロリバイバルのおもしろさを味わえます。
いわゆるZ世代が、写ルンですからオールドコンデジ、レコードからカセットテープまで、デジタル文化の反動で物体や質感を伴うものが若い世代に新鮮に映るとは聞いていましたが、ここまで全てをかみ砕いて、いい曲と映像に仕立てているのがすごいです。
今、日本でも、90年代渋谷系が聴く対象としてリバイバルしているだけではなく、「令和の渋谷系アーティスト」なんていう呼ばれ方のアーティストも登場してきています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/25e4c1e66e8f7f578d6c68351bedc0b0592f541a
このYONLAPA、往年の音楽ファンも、スーパーカー、ナンバーガール、サニーデーサービス、フィッシュマンズなどが好きな方はハマっちゃうのではないでしょうか。
さて、曲ですが、独特の浮遊感を持っていて、特異な楽曲になっています。
この、メンバーが完全に同じ方向を向いている感じ。バンドの理想形ではないでしょうか。
ここから音に関してちょっと細かい所に入りますのでご興味ない方はスクロールしつつ生暖かく見守ってください。
YONLAPAの音づくり、ほんとにいいですね。
まず、この曲のベースは最高です。
本当に正統派のソウル/ファンクな感じの渋い(いい意味で鈍い)音で、日本だとこういう音を意識的に出しているところでいうと、ハマ・オカモト、さらに遡るとYMOの細野晴臣的な指向かな、と思います。
本当に上手い人って、派手な音じゃなくて、もこっとした音でいいベース弾ける。
たぶんわざとですがちょっとぎこちなく弾いてるのも、味出しのニュアンス表現かもしれません。
そしてギターです!
まず機材からインパクトあります。
楽曲によって違いますが、この曲ではギター、ボーカルともに「ダンエレクトロ」のギターを弾いてます。
ダンエレクトロって、そもそも無垢の木ではない素材で作られた、ちょっと特殊なギターです。
価格も無垢の高級木材を使った物よりは安価ですが、イコールチープだという事なかれ。
何しろダンエレクトロのギター、伝説のバンド、レッドツェッペリンのギタリスト、ジミー・ペイジが使用して有名になった&市民権を得たギターなんです。
パキッ!プリッ!とした、弦の揺れを跳ね返すような音に特徴があって、むしろ高級なギターが真似できない音が出るわけで、要は使い方次第、というギターですね。
YONLAPAは完全に使いこなしてます!
澄んだクリーンなトーンも残りつつちょっと個性を加える、というのがこのギターの最高の使い方だと考えているのですが、まさにその感じ!
Bメロのゆらゆらしたギターの音。効いてますね。
これは想像ですが、おそらく「コーラス」というエフェクター、それも、ニルヴァーナのカート・コバーンが使用して一躍有名になったエレクトロ・ハーモニクスのような音質を感じます。
もちろんいちばん有名な曲は「Smells like teen spirit」ですが、このエレクトロ・ハーモニクス、通称エレハモの音を堪能できるのは同じアルバムに入っている「Come as you are」ですかね。
冒頭からギターの独特のゆらゆら~が楽しめます。
話は戻りましてこのYONLAPAの「Let Me Go」、楽曲の印象、音づくりから映像、ファッションまで、すべてメンバーがルーツを共有して紡ぎあげるこのMVは最高にかっこいいです!
もう1つ、この曲とは違った、YONLAPAの別の顔の凄みを堪能できる1曲をぜひ紹介させてほしいです!
「Why Why Why」
ノラ・ジョーンズのような雰囲気すら感じさせる、静寂性を湛えたとっっても美しい曲です。
この曲、沁みます…。
聴きすぎて、寝ぼけている時なんか、かなりの頻度で脳内再生されています。
スッと入ってくるのに、借り物ではないメロディ。
サビなんて、癒しを超えて赦しのニュアンスすら感じられます。
YONLAPA、すっかりファンになってしまいました。
いいアーティストに出会えてうれしい。
他にも、タイのインディーシーン、YOLANPAを含むこのSpotifyの「タイインディー」プレイリストをざっとなぞるだけでもは粒ぞろい。いいなあ、レベル高いなあ、と思います。
話が長くなるので端折りますが、タイのロックバンドは「シューゲイザー/シューゲイズ」呼ばれたジャンルっぽいニュアンスの曲を持つアーティストも多いようですね。
1990年代初頭にかけてイギリスで生まれ、世界に影響を与えた、ジャンルというか風潮というかドレンドというか…。
語源は、腰を折った姿勢でうなだれて轟音ギターをかき鳴らす=靴ばっかり見てる ということで、うなだれて下を見てるから靴とかエフェクターとか、足元ばっかり見てる=靴→Shoeを凝視するやつ→Gazer ということからそう呼ばれ始めたといわれています。
代表格としてはThe Jesus and Mary ChainやMy Bloody Valentineなどが挙げられます。
YONLAPAにもこの系統の曲があり、先述のフジロックライブレポートでもシューゲイズという表現が出てきていて、その辺もおもしろいですね。
今後も追っかけてみようと思います!
[文・構成/タイナウ編集部 サワディーワタナベ]