新旧問わず、音楽に親しんできたタイナウ編集部ワタナベが、未体験だったタイポップを聴いて綴る音楽鑑賞記。「サワディーワタナベ」は未知のタイポップへのサワディー=こんにちは のご挨拶です。
今回聴いたタイの人気俳優、アーティスト、NuNew(ヌニュー)の「Leave Me With Your Love」です。
これはとにかく歌、声を楽しむ曲ですね。
この曲はNuNewの韓国デビュー曲ということで、それだけでも話題性抜群ですが、楽曲もすばらしいクオリティーです。
まず、プロデューサーが、BTS、IU、ENHYPENなどの楽曲を手がけてきた韓国のスタープロデューサー、EL CAPITXN(エル・キャピタン)です。
以前タイナウでもNuNewと中睦まじくハグする様子をレポートしましたが、本作にもその愛と、NuNewの魅力を見抜いた上で、自分にしかできないアレンジで勝負している印象があります。
タイのシンガーは本当に歌がうまいです。特に驚くのは人気俳優がここまで歌えるのか、というレベルなのですが、そうであるからこそ、個性が求められます。
NuNewはその点において強い武器=個性を伴う声と歌唱力を持っているなあ、と思います。
個人的には、NuNew最大の魅力であり、かつ他の人には真似できないのは、やわらかいのに密度が高く、かつ輪郭がシャギーに際立つ歌声だと思います。
この声を何かしらの食材に例えると、濃厚でクリーミーな本質を持っているのに、それだけでなく、外側はサクッとザクっとした小気味のよい質感とリズミカルな食感も伴っている感じ。
さあ、そこで気になるのは、EL CAPITXNがこの最高の素材=声をどう料理するのかです!
NuNewとEL CAPITXNの結論。この曲は、敢えて声を「いじる」ことで声を主役にする、ということだったのではないでしょうか。
これは発想も大胆だし、実現は難しいし、手間がかかるし、かなりのチャレンジだったのではないかと思います。
そのアプローチを端的に表現すると、NuNewの歌声そのものに、主役である歌であり、楽曲を構成する「音」の役割も担わせる、という感じではないでしょうか。
具体的には、ボーカルに全体的に深めのエフェクトをかけ、サウンドとの一体感を強め、空間的な広がりも持たせる。その辺を狙って、見事にその通りになっているように思います。
声にシンセサイザー的な表情を持たせることで、意図的に声とサウンドの境界線をグラデーション化しているのです。
しかも、そのエフェクトの種類をパートによって変化させることで、「声の味変」が楽しめるという贅沢な仕上がりになっています。
NuNewの紡ぎ出す声とも、EL CAPITXNの繰り出す音ともドハマりして魅力を高め合う、天才的なアレンジです!
冒頭の、モヤっとした分厚いエコーの先にあるやわらかい声、その残響を切り裂くように入る鮮烈なサビ、それに続くシャギーなAメロ…
同じ声=素材がどんどん表情を変えて語り掛けてくる立体的でドラマティックな展開。
しかも、歌詞も英語と韓国語の混合。
声も音も歌詞もアレンジも、すべてが多面的。
この充実感あふれる名曲を、あなたの秋のお気に入りに加えてみてはいかがでしょうか?
[文・構成/タイナウ編集部 サワディーワタナベ]