新旧問わず、音楽に親しんできたタイナウ編集部ワタナベが、未体験だったタイポップを聴いて綴る音楽鑑賞記。「サワディーワタナベ」は未知のタイポップへのサワディー=こんにちは のご挨拶です。
今回聴いたのは、T-POPをリードするタイの人気シンガー、BENZKHAOKHWAN(ベンツ・カオクワン)の 「FAKE NEWS」 です。
BENZKHAOKHWANはガールズグループでの活動を経て、2023年にソロアーティストに転身。「T-POP界のライジングスター」と評されることも多いアーティストです。
この楽曲は、あらゆるジャンルで蔓延するフェイクニュースというトピックに、向かい合いつつ笑い飛ばすようなスタンスを感じさせる、軽快なポップチューン、MVとなっています。
こういう、一見ネガティブなテーマをユーモアで返すノリ、大好きです。
曲もいいですがMVがいいですね。
フェイクニュースがコンセプトになると、ネット、記者、カメラマン、新聞、街の人々のヒソヒソ話、話がこじれる伝言ゲームから人間関係まで、モチーフとなる要素は無限。ベンツ本人も、制作陣もその辺を楽しみながら制作している感じが伝わってきます。
このMVの企画会議、おもしろかっただろうなあ…
華やかながらチープ、という、表に出る情報の張りぼて感や軽薄さがとてもいい感じに表現されているように思います。
メッセージ性はあれど、決して辛辣にならず、ポップに仕上げる。
これはベンツのキャラクターによる所も大きいんでしょうね。
このわかっててふざけてる感、最高です。
さて、音づくりについて。
上記に述べたMVの方向性とばっちり合った音がいいですね。
メロディーはあくまでキャッチーで明るく軽快。それでいて使う音にはMVから感じられる独特のチープさ、軽薄さが出るように計算されている感じがします。
ド頭の「キュルルルル…」という、流れ星みたいなかわいいSEは、海外でもリバイバル人気を博している「うつ星やつら」のラムちゃんの’飛行音’みたいです。
実際、かなーり近いです。
非常にポップ&ユーモラスで印象的なこの音、再現を試みる強者もおられます。
そしてAメロ直前からパートの切り替えのアクセントに全編通して使われている「ピャッ!」という歯切れのよい短いシンセの音。これがまたチープで最高。
この音、明らかに聞き覚えがある…
わかりました、DA PUIMPの大ヒット曲、「 if…」に繰り返し登場する特徴的な「あの音」の系統ですね。
この狙った感じの音選び。センスと遊び心を感じます。
そんなユニークな音づくりにぴたっとはまってくるのがベンツの歌です。
わざと鼻にかけたような、歌声に調整しているのと、リズミカルに切り返す所とにゅ~ん♪と伸ばす所のコントラストがタイ語歌詞ととても合っています。
最後にダンス。この人のダンス、結構個性的です。
うまく表現するのが難しいのですが、独特の軸の強さというか重心の安定感というか、キレはあるのにフワフワしていない。
その辺りの実力、なかなか真似できない芯があるからこそ、こういったノリの軽いMVでも堂々と表現できるのかなあ、と思いました。
いやー、観るたびに、聴くたびに発見がある楽しい楽曲でした!!
[文・構成/タイナウ編集部 サワディーワタナベ]

