[写真 @JeffSaturSATS公式YouTubeより]
タイのバンコク出身のエディター、ギフト(←名前です)がタイの現地情報、タイポップの歌詞、スラング、ネット用語を独自に読み解く!読めばもっと理解が深まる、楽しめる!
今回は、Jeff Satur(ジェフ・サター) が11月中旬にリリースした「ของขวัญปีใหม่(Golden Night)」を、日本語訳と一緒に解説したいと思います。この曲は今またじわじわブームが戻ってきています。きっかけは、昨日公開されたJeffとTIMETHAI(タイムタイ)のコラボ動画です。
2人の歌声があまりにも相性よくて、「แสงออกหู(セーンオークフー。“耳から光が漏れるほど良い”というニュアンスで、音楽がすごく良いときに使われるタイ語のスラングです)」と思うほどの美しさでした。TIMETHAIは歌が上手いのはもちろん分かっていたのですが、今回のコラボは良い意味で予想を超えていて、Jeffに引けを取らないくらい独特で個性的な声の使い方も見せてくれて、その2人の声が混ざり合うことで、本当に説明のしようがないほど美しいハーモニーでした。
そんなわけで、改めて曲を聴きつつ、日本語訳と解説も一緒に楽しんでいただけたらうれしいです!
まずは曲名「ของขวัญปีใหม่(Golden Night)」から。英語の公式タイトルGolden Nightは、日本語にすると「黄金の夜」「特別に輝く夜」といったニュアンスになります。年越しの夜にぎゅっと詰まった思い出や感情を象徴しているタイトルです。
一方で、タイ語タイトル「ของขวัญปีใหม่(コーンクワン・ピーマイ)」は直訳すると「新年のプレゼント」という意味になります。同じ曲なのに英語とタイ語で少し違う表現が使われているのは、それぞれが曲の持つ“気持ち”を別の角度から表しているからだと思います。では、なぜタイ語では「新年の贈り物」という名前になっているのか──その答えを探りつつ、日本語訳と一緒に歌詞を見ていきましょう。
〈A〉
ในคืนข้ามปี
年越しの夜
ฤดูกาลหน้าหนาวนาน ๆ มีสักที
冬らしい寒さは久々
หนาวก็ดีแต่ที่ไม่ดีคือมันคิดถึงแต่เธอ
寒いのはいいけど、よくないのは君ばかり思い出してしまうこと
ก็แค่อยากเจอ
ただ会いたくて
แค่คิดถึงเราในปีนั้น
あの年の僕たちを思い返してしまう
この部分で特に面白いのは、フレーズの語尾に音が響き合う言葉を使っていて、耳に残る心地よいリズムが生まれているところです。たとえば「ปี/ピー(年)」と「ที/ティー(〜のとき)」、「เธอ/ター(君)」と「เจอ/チャー(会う)」のように、音が近い言葉を並べることで、歌としての“美しさ”が強調されています。よく耳をすませてみると、こうした“音が似た言葉を重ねる遊び”が曲のあちこちに出てきます。
さらに「ดี/ディー(いい)」と「ไม่ดี/マイディー(よくない)」のように、反対の言葉を同じ行に置く表現も印象的で、感情の揺れがより鮮明に伝わってきます。こうした言葉遊びがさりげなく散りばめられているのが、この曲の魅力のひとつと言えます。
〈B〉
ผ่านไปหลายปี
何年も経った
ฉันยังจมกับรักที่ผูกวนที่นี่
でも僕はまだここで縛られた愛に沈んでいる
ร้านที่เคยฉลองยังอยู่ที่เดิมเพียงแค่ขาดเธอ
一緒にお祝いした店は今も同じ場所にあるのに、変わってしまったのは君がいないことだけ
สิ่งที่ต้องเจอ
そしてまた向き合うのは
น้ำตาก่อนเที่ยงคืนในปีนี้
今年も、年越し前にこぼれてしまう涙なんだ
〈サビ〉
รักเก่า
古い恋
ปีกี่ปีก็ยังไม่เคยจะเก่าเลย
どれだけ年月が経っても古くならない
ปีทั้งปียังคิดถึงเธอเหมือนเคยเลย
一年中ずっと、変わらず君を思い出している
เหมือนเคยเคย
いつもと同じ
อยากจะได้ของขวัญในปีใหม่
僕が欲しい新年のプレゼント
เป็นคนเก่าได้ไหมให้เธอคืนกลับมา
“古いあの人”が戻ってきてくれることだ
ここは、タイ語の「เก่า/ガウ(古い)」と「ใหม่/マイ(新しい)」をあえて対比させた、言葉遊びになっています。タイ語では “昔の恋” や “元恋人” のことを「รักเก่า/ラックガウ(古い恋)」「คนเก่า/コンガウ(古い恋人)」と表現しますが、その一方で曲のテーマは “ปีใหม่(新年/新しい年)”。つまり、「古い」と「新しい」が意図的に並べられているのです。特に“รักเก่า ไม่เคยเก่าเลย(古い恋なのに、決して古くなることはない)”というフレーズが個人的にとても好きです。そして “ปีใหม่ แต่อยากได้คนเก่ากลับมา(新年だけど、欲しいのは昔のあの(古い)人が戻ってきてくれること)” というコントラストが、切なさを一層際立たせています。
〈C〉
Tryna tell myself
自分に言い聞かせている
เก่งแล้วที่จะไม่คิดถึงเธอเลย
君のことを思い出さなくてえらいんだ
One at a time and
一度に一歩ずつ
Two at a time
一度に二歩ずつ
สุดท้ายก็ยังคงคิดถึงแต่เธอ
でも結局 君のことばかりを思い出す
ยังเฝ้าอยากเจอ
ずっと会いたくて
ยังคิดถึงเราในปีนั้น
ずっとあの年の僕たちをまだ思い続けている
このパートでは“One at a time(一つずつ)”“Two at a time(二つずつ)”という〈数える動作〉を使って、前に進もうとする気持ちを象徴的に表しています。1歩、2歩と進もうとするたびに、声にはしっかりとした力強さが宿り、前を向こうとする意志が伝わってきます。しかし、歌い終わりに近づくにつれてその声は次第に弱くなり、結局「行き着く先はまた君なんだ」という諦めにも似た切なさへと戻っていく。3にすら届かないまま、前へ進もうとしても結局は君のことに立ち返ってしまう──そんな心のループを“1、2”というシンプルなカウントで描き切っているのが、この歌詞の一つの印象的なポイントです。
歌詞はここで終わり、最後にサビを2回繰り返す構成になっています。そのため、年が明けるこの夜になっても、結局はまだ“古い恋”を乗り越えることができていない――そんな余韻で物語が締めくくられます。
しかし、タイ語と英語、それぞれの曲名に目を向けると、意味は違っていても共通して前向きな響きを持っています。歌詞自体は過去への執着とループから抜け出せない心情で終わる一方で、タイトルには「いつかはこの年越しの夜が、新しい朝へとつながる瞬間になるのかもしれない」という、ほのかな希望が隠れているようにも感じられます。
新年の“新しい”に対して、歌詞で繰り返される“古い恋”という言葉が対比として機能して、いつかその“古い恋”を乗り越えることができるのか、あるいは、むしろ“古い恋人”が戻ってきて、主人公の願いがいつか叶うのか――そんなふたつの可能性をそっと残したまま曲は幕を閉じます。
JeffのオリジナルMVはこちら!
今回の歌詞分析、いかがでしたか。Jeffは作曲や歌唱力の高さはもちろん、比喩や言葉遊びを巧みに取り入れ、深い意味を持つ歌詞を書き上げるセンスにも定評があります。もし、翻訳や歌詞の分析をしてほしい曲がありましたら、ぜひリクエストしてください。それではまた次回、一緒にタイポップスの奥深い魅力を味わっていきましょう!
[文・構成/タイナウ編集部]

