新旧問わず、音楽に親しんできたタイナウ編集部ワタナベが、未体験だったタイポップを聴いて綴る音楽鑑賞記。「サワディーワタナベ」は未知のタイポップへのサワディー=こんにちは のご挨拶です。
今回聴いたのは、タイの大人気シンガー/女優/モデル/ムエタイ選手/実業家/おおおおお肩書多いな!! …の、KT Kratae(クラテー)の「Bangkok City」です。
肩書でひときわ目を引くのは「ムエタイ選手」ですが、それは後ほど。
この楽曲、まず驚くのはその再生数です!
2025年末あたりに公開され、2月中旬時点で1980万再生…なんですかこの勢いは。サワディーがこの曲を見つけて、記事にしよう!と思った時点からでも150万再生くらい増えてます!(これに関しては、サワディーの筆が遅い場合も自然とそうなります。)
そのタイトル通り、バンコクの風景、トピックがた~っぷり登場し、まさに画面の向こうはタイの風。
映像の質感も、カラフルでありながら単にきれいなだけではなく、バンコクの空気感の表現を意識して調整されたと思われます。
あまりなじみがなくても、「タイっぽい!バンコクっぽい!」という気分になります。
楽曲の話に入りましょう!
街のなんでもない様子と雑音のイントロの後、ワット・アルンを臨む美しい水辺の風景が広がると共に曲が始まります。
ここの開放感だけでもう気持ちがいいです!
イントロの、ノスタルジックな弦楽器の音も郷愁を誘い、期待が膨らみます。
Aメロがはじまると、これまたノスタルジックなバンブーっぽい木琴の音が雰囲気をつくります。
こういう古風な楽器の音って、海外のものでもなぜか懐かしさを感じるんですよね。アジアつながりではあるからか…?とも考えましたが、地球の裏側のような場所のアイルランド民謡なんかの音を聴いても懐かしさを感じたりもするので、地域やルーツを超えた何かがあるのでしょう。
ちなみに「蛍の光」はスコットランド民謡です。
そんな郷愁も含め、これまでサワディが聴いてきたタイポップ/T-POPとは一線を画す印象。それもそのはず、クラテーの楽曲のルーツはタイの昔ながらの歌謡曲ジャンル、「ルークトゥン」なんですね。
その歴史は1940年くらいからだと言われていますが、ざっくり、日本における演歌的な存在だと位置づけられるかと思います。
クラテーはそのルークトゥンの中でも、特に大胆に現代風のアレンジを効かせた楽曲が多いようで、「Bangkok City」もそのミックス感覚が存分に投入されています。
さて、曲に戻ります。音が少な目なAメロは歌も控えめですが、ド頭のフレーズで微妙~に一瞬声を裏返したり、音感の良さや声の消し方のテクニックに、ただものではない感じがビシビシつたわってきます。
次にBメロに行くのですが、トゥクトゥクに乗り込んでブゥ~ン!と発進したタイミングでBメロに入る。
この映像と連携したリズム感!
これはぜひMVで鑑賞すべきでしょう。
おもしろいのが、特にサビのリズムです。
誰にもお願いされてはいませんが、がんばってテキストで表現してみたいと思います!
頭で打つダッダッ ダッダッ
というリズムに加えて、
ドッッタ ドッタン
というリズムが組み合わさっています。
このドッッタ ドッタンの方は、いわゆる「レゲトン」というジャンルで多用されるリズムパターンですね。レゲトンで有名なのはレゲトンキングことダディー・ヤンキーの「ガソリーナ」でしょうか。
「あ、なんか聴いたことある」あるいは「懐かし~!」という方も多いのでは。
ね、ドッッタ ドッタン、でしょ。
「Bangkok City」はこの2つのリズムが組み合わさってとても気持ちのよいノリになっています。
両方一緒に並べるとこうなります。みなさん、ぜひ2行一緒に脳内再生してください!
さん、ハイッ!!
ダッ ダッ ダッ ダッ
ドッッタ ドッタン ドッッタ ドッタン
うまくいきましたね!(英会話番組か)
違うリズム2つ、最後に帳尻が合うようになっているのです。
リズムの話ばかりで「記事のテンポ悪いな!」と怒られそうなので次は歌唱に注目しましょう。
特にすごいな、と感じたのは、Bメロの伸びのある歌唱です。特に間奏兼Bメロのような役割を持つ2:13あたりの歌声。
ここの、一瞬声を裏返す(喉にひっかける感じ?)とか、音の強弱を一瞬でコントロールするとか、インド音楽ばりに高速かつ正確にめまぐるしく音程を変える歌い方は、誰も鬼レンチャン不可能な領域です。
この、裏声を含めた声のコントロールの凄み。私はちょっと元ちとせを思い出しました。
さあ、歌もすごけりゃダンスもすごい。
ということで、バンコクの風を感じながらクラテーのダンスに着目すると、キレのある今風の踊りに見えて、なんだこの重心の低さ!というか体幹の強さは。
普通は転んじゃいそうなポーズも難なくこなします。
その理由はMV後半で明らかになります。
そう、彼女はムエタイチャンピオンだったのです!
冒頭の肩書でさらっと「ムエタイ選手」と書きましたが、調べたところでは14歳から本格的にムエタイをはじめ、あげくチャンピオンになっているのがすごい。
というか彼女のキャリア、ムエタイの方が先なんですね。
ということで、リングで技を繰り出すシーンもありますが、とにかくこの速~くて硬そ~で重そ~なニーキックだけは食らいたくない。
強すぎて、一回召されてから跳ね返って現世に戻ってきてしまいそうなくらい強烈。
そんな見どころたっぷりのこの曲ですが、「お、別バージョンがあるぞ」と思って観てみたところ、タイで行われたミス・ユニバースの授賞式のパフォーマンスのようです。
こちらもかっこいいのです!
曲の前に、ムエタイの様式で祈りをささげるシーンは神々しくすらあります。スパーリングやってくれるのもいいですねー。
細かいけど、ミュージシャンのおじさんがタキシードにタイパンツなのがかわいい。
パフォーマンスもいいですが、個人的に一番オーラを感じたのは曲終わり、最後の「We~lcome to Tha~ila~nd…」のひと言。かっこよ。
またタイポップの深淵に触れることができた、見どころ聴きどころたっぷりの1曲でした!
[文・構成/タイナウ編集部 サワディーワタナベ]

