[写真 @SahamongkolFilm公式ウェブサイトより]
タイのバンコク出身のエディター、ギフト(←名前です)がタイの現地情報、タイポップの歌詞、スラング、ネット用語を独自に読み解く!読めばもっと理解が深まる、楽しめる!
多くの人は、GMMTVの新作発表で『The Love of Siam』の名前を聞いたことがあるかもしれません。本当にこれから上演されるこの舞台はまったく新しい作品ではなく、2007年に公開された映画『รักแห่งสยาม(ミウの歌〜Love Of Siam〜)』が原作です。
タイ映画『รักแห่งสยาม』は、2007年に公開された青春カミング・オブ・エイジ作品で、今では“タイ人の心に残るクリスマス青春映画”として語り継がれる名作です。Ma-Deaw Chookiat(マデェーウ・チューキアット)監督が手掛け、Mario Maurer(マリオ・マウラー)とPchy Witwisit(ピッチ・ウィウィシット)が主演を務めました。
公開当時、二人はフレッシュな新人俳優でしたが、本作をきっかけにブレイク。マリオはその後トップスターと呼ばれるほどの人気俳優へと成長し、出演作には興行収入1億バーツ(約49億円)を超える大ヒット映画も存在します。
一方ピッチは、劇中で披露した歌唱シーンが強く印象に残る存在となり、彼が歌う映画主題歌も注目を集めました。この作品を機に音楽面でも人気が高まり、後にミュージシャンとしても本格的に成功を収めています。
物語はクリスマスシーズンのサイアムスクエアを舞台に、家族の喪失、すれ違い、友情、そして静かに芽生える初恋を描きます。当時のサイアムスクエア特有の学生たちの賑やかな風景、冬の涼しい空気、レコードショップなど、今では懐かしい情景が鮮明に蘇ります。

[写真 @SahamongkolFilm公式ウェブサイトより]

[写真 @SahamongkolFilm公式ウェブサイトより]
しかし物語は単なる青春映画にとどまりません。主人公トンは幼い頃、姉を失い、父はアルコール中毒、両親も不仲になる家庭で育ちます。姉の失踪をきっかけに家族は引っ越し、幼なじみのミウとは離れ離れになってしまいます。

[写真 @SahamongkolFilm公式ウェブサイトより]
ミウは歌の才能を活かし、高校では友だちとバンド「August(オーガスト)」を結成。デビューを目指す姿も描かれ、映画公開後には実際にバンドもデビューしました。家族の葛藤や人生の複雑さ、友情や初恋の繊細な描写が組み合わさることで、『รักแห่งสยาม』は単なる青春映画以上の深みを持ち、長く愛される理由のひとつです。

[写真 @SahamongkolFilm公式ウェブサイトより]
『รักแห่งสยาม』がタイ映画史に残る理由のひとつは、主流の商業映画として“男性同士の恋”を主要テーマの一部として描き、BL表現を日常へ導いたパイオニアであることです。同年には『เพื่อนกูรักมึงว่ะ(バンコク・ラブストーリー)』も公開されましたが、明確なゲイ映画として宣伝されていました。一方『รักแห่งสยาม』は、“青春映画”として一般層にも開かれた形で上映され、さらにNok Sinjai(ノック・シンジャイ)、Kob Songsit(ゴップ・ソンシット)、Ploy Chermarn(プローイ・チャーマーン)など、当時の国民的俳優が参加したことで、家族連れも含め幅広い観客が自然と劇場に足を運んだ点が大きな違いでした。

[写真 @SahamongkolFilm公式ウェブサイトより]
公開当初は一部でネガティブな反応もあり、「思っていたのと違う」と感じた観客もいました。当時、男性同士の恋愛はまだメディア上で一般的に受け入れられず、BL的要素を前面に出していなかったことから、驚きや戸惑いの声もありました。しかし、その自然な描き方こそが、幅広い観客を劇場に引きつけるきっかけとなり、結果的に“タイBLの扉を開いた作品”として歴史に残りました。
映画を象徴する名曲『กันและกัน(互いに与え合う)』は今も国民的ソングとして深く愛され、聴くたびにサイアムのイルミネーションや青春の日々を思い出させます。また劇中に登場するAugust Band(オーガストバンド)も人気を獲得し、音楽と映画の相乗効果が当時大きな社会現象となりました。
公開から18年が経った今も、『รักแห่งสยาม』はタイの“good old days(古き良き時代)”を象徴する作品として特別な存在です。昨年も特別上映会が行われ、監督トークを目当てに多くのファンが集まりました。さらに今年には、GMMTVが同作をミュージカル版としてリバイバルすることを発表し、再び熱い注目を浴びています。
20年近くの時を経て再び蘇る『รักแห่งสยาม』が、どのような新しい感動を届けてくれるのか、大きな期待が集まっています。私もこのクリスマスに『รักแห่งสยาม』の映画を観て、懐かしい気持ちに浸るつもりです。皆さんもぜひ、タイで長く愛され続けるこの映画を体験してみてください。
[文・構成/タイナウ編集部]

