タイのバンコク出身のエディター、ギフト(←名前です)がタイの現地情報、タイポップの歌詞、スラング、ネット用語を独自に読み解く!読めばもっと理解が深まる、楽しめる!
近年、タイでよく耳にする言葉の一つが「จะล่าแบ้/ja-laa-bae」です。
この「จะล่าแบ้」は、本来の表現である「จะบ้า/ja-baa」を、言葉遊びによって変化させた俗語です。
日本語で直訳すると「頭がおかしくなりそう」という意味で、「頭が痛い」「ありえない」「やばい」といったニュアンスに近く、誰かが要領の悪いことをしたり、理解できない行動を取ったりして、状況が混乱し、イライラや疲労が限界に近づいたときに使われます。感情が高ぶった瞬間に、思わず口に出る軽いノリの表現として、現在ではSNSや日常会話を通じて広く浸透しています。
この「จะล่าแบ้」は、タイのLGBTQ+コミュニティで使われてきたภาษาลู/phaa-saa-luu(ルー語)から生まれた表現です。ルー語は、仲間同士だけで意味が通じるように作られた“秘密の言葉”で、特にLGBTQ+の間で発展してきました。外部の人に意味が分かりにくいことから、冗談やゴシップ、内輪話を楽しむための言語として使われています。
ルー語の最大の特徴は、音を入れ替える言葉遊びにあります。
基本ルールは、話したい単語の前に「ลู/luu」を付け、そこから音を変化させることです。
まず基本となるのが「ลู/luu」を付けてから母音と末子音の音を転換する方法です。
たとえば「เสื้อ/sua(服)」は「ลู-เสื้อ/luu-sua」とした後、音を入れ替えて「เลื่อ-สู้/lua-suu」になります。「มาก(とても)」は「ลู-มาก/luu-maak」から「ลาก-มูก/laak-muuk」と変化します。
次に、子音の置き換えがあります。
ルー語では、「ร/r」や「ล/l」の音が、「ส/s」や「ซ/s」に変わることがよくあります。
「รัก/rak(愛)」は「ลู-รัก/luu-rak」から「ซัก-ลุก/sak-luk」に、
「ร้อน/roon(暑い)」は「ลู-ร้อน/luu-roon」から「ซ้อน-ลู้น/soon-luun」になります。
さらに、母音の変化も重要なポイントです。
特に「อู/uu」の音が、「แอ/ae」や「อี/ii」に変わることがあります。
「จูบ/juub(キス)」は「หลูบ-จีบ/luub-jiib」や「หลูบ-แจบ/luub-jaeb」、
「ลูก/luuk(子ども)」は「ซูก-แลก/suuk-laek」や「ซูก-ลีก/suuk-liik」といった形になります。
複数の音節を持つ言葉は、一音ずつ分解して変換します。
たとえば「กะเทย/ga-toey(トランス女性)」は、音を分けて処理し、
「กะ/ga」 → 「ลู-กะ/luu-ga」 → 「ละกู/la-guu」
「เทย/toey」 → 「ลู-เทย/luu-toey」 → 「เลยทู/loey-tuu」
結果として「ละกูเลยทู/la-guu-loey-tuu」という形になります。
このようにルー語は、明確なルールがありながらも、即興性と遊び心にあふれた言語です。「จะล่าแบ้」という言葉は、その文化の中から生まれ、現在ではSNSやエンタメを通じて一般層にも広がっています。
[写真 @The Standard公式ウェブサイトより]
タイの有名メディアやエンタメ系コンテンツでも自然に使われるようになり、「จะล่าแบ้」は特定のコミュニティを超えた言葉として定着しています。さらに、エンタメに限らず、真面目な政治ニュースなどでも見出しや表現の一部として使われるケースがあり、その浸透度の高さがうかがえます。
タイのポップカルチャーやLGBTQ+文化を知る上で、欠かせないキーワードのひとつと言えます。ぜひ皆さんも「จะล่าแบ้/ja-laa-bae」を使ってみてください!
[文・構成/タイナウ編集部]


