[写真@JeffSaturSATS公式YOUTUBEより]
新旧問わず、音楽に親しんできたタイナウ編集部ワタナベが、未体験だったタイポップを聴いて綴る音楽鑑賞記。「サワディーワタナベ」は未知のタイポップへのサワディ=こんにちは のご挨拶です。
今回聴いたのはタイの人気アーティストJeff Satur(ジェフ・サター)の楽曲「Ghost」です。
最近こちらの記事でも取り上げたように、「Ghost」は「Thai Popular Music特別賞」を受賞した楽曲です。
ジェフ・サターは歌手、俳優、音楽プロデューサーとマルチな才能を持つアーティストとして知られていますが、この曲ではその全ての力が存分に発揮されています。
圧倒的な歌唱力、没入感の高い音づくり、MVにおける演技、映像の質感まで、すべての要素が高次元で融合していて、とても4分ちょっととは思えない、映画のような読後感と余韻を残します。
じわっと続くせつない感覚と共に、「ああ、観て得した…」という充実感。
MVの枠を超えたクリエイションは、何かの賞でも獲っていけりゃ納得いかない とすら感じるくらいです。
冒頭から雰囲気満点です。
ノスタルジックでレトロな質感の映像、乗馬シーンと馬のごそごそした蹄の音で、開始1秒未満でもう非日常に取り込まれてしまいます。
そこに残響たーっぷりのコーラスとサウンドによるイントロが入ります。
この感じ、まるで「幻想的の代表格」歌姫、enya(エンヤ)の曲のサウンドみたいで、開始早々からの壮大感に驚きます。
そして、女性が見つめる窓の外にはロケットが打ちあがるシーン。
ロケット!?
そうです。このMV、時代設定は昔でありつつSF的な要素が入った不思議なストーリーになっているのです。
女性にとって忘れられない恋人=ジェフ。彼は何の因果か捉えられ、電極のようなものをつけられ科学実験の被験者のような目に遭ってしまいます。
そしてその代わりとして登場する新しい男性=ジェフ。
女性が新しいジェフを受け入れようとするシーンも、元ジェフが贈ってくれた小枝か何かで編まれた結婚指輪を外し、新ジェフが贈ったと思われるキラっとメタリックな指輪につけかえるという動作で詩的に表現されています。
短い時間で旧ジェフの素朴な魅力と彼との思い出、新ジェフの存在の対比がとてもエモーショナルに描かれていますね。
でも、旧ジェフとの本物の愛を忘れられない女性は別れを選ぶ。
どこか物憂げなジェフのまなざしは味わい深く、共演しているモデル/女優のDana Slosarの表情だけで心情を語る演技もいいですね。
愛と喪失がもたらす心模様に、さらにSF要素も絡んで複雑味を帯びた、印象深い作品です。
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さて、そんな見ごたえたっぷりのMVですが、やっぱり主役は歌です!
正直、ジェフの歌、聴いてびっくりしました。歌がうまいとかテクニックがどうとかを超えて、ひとつの音としてものすごい魅力とオーラを持っています。
歌の冒頭は少しだけハスキーな倍音を含ませた低めの落ち着いた色気のある歌声で聴かせます。
そこからBメロに入る瞬間の澄み切ったハイトーン!これは鳥肌モノで、個人的には聴きどころです!
サビまだなのに!!
ジェフの歌声は、地声から裏声歌唱法のファルセットがシームレスにつながっていて本当に気持ちの良い歌声です。
声そのものとコントロールが超絶に上手いので、大げさなビブラートも必要ない。
そして、声の消え方が美しい。
サビは同じふしのフレーズが反復していきますが、表情豊かに少しずつ少しずつボルテージを上げ、3:20くらいには、美しいハイトーンボイスの音量をぐいっと持ち上げつつ、シャウト成分をグラデーション的に含ませていく、曲芸のようなヴォーカル技を聴かせてくれます。
鳥肌2回目。
まだまだタイポップの知識は浅いですが、タイのおすすめ曲プレイリストをつくる機会があるならば、お願いされてもいないのにつくるのなら、この曲は絶対に入れます!
きっと、もっともっと広く世界にはばたく美声です、ぜひご堪能あれ!
[文・構成/タイナウ編集部 サワディーワタナベ]