【トークレポート】6月13日(金)日本公開:タイ映画『おばあちゃんと僕の約束』──脚本家トッサポン・ティップティンナコーン氏が語る、個人的な記憶から世界へ届く物語

ThaiNow編集部

2025年、6月東京のタイ大使館主催で行われた映画『おばあちゃんと僕の約束』の上映会にて、本作の脚本家トッサポン・ティップティンナコーンさんが登壇し、制作の背景やタイ映画の未来について語りました。
この映画は、第97回アカデミー賞国際長編映画賞の候補15作品に選ばれた初のタイ映画として、今大きな注目を集めています。
以下、トークショーの模様を詳しくお届けします。

身近な体験から生まれた脚本
トッサポンさんが本作の脚本を書き始めたきっかけは、「身近な経験から脚本を書いてみてはどうか」とプロデューサーに提案されたことでした。
そのアドバイスに従い、癌を患っていた祖母の介護を母と共に手伝った日々を脚本の土台としました。
以前はあまり親しくなかったという祖母との関係が、介護を通じて変化し、特に遺産を分けた日の祖母の言葉が心に強く残ったといいます。
これらの記憶が、映画における「孫と祖母の約束」として描かれています。

個人的な感情を伝える難しさと向き合う
自身の体験を物語化することには困難も伴いました。
「自分だけが深く感じていることを、他の人にどのように伝えるかが難しかった」とトッサポンさんは語ります。
たとえば、感情的に話すと妻が冷静に返すなど、温度差に戸惑うこともあったそうです。
一方で、登場人物の多くが家族や親戚をモデルにしているため、キャラクターの感情を理解しやすかった点が執筆を助けたとも話しました。

世界が共感した“普遍的なテーマ”
映画チームは過去のアカデミー賞ノミネート作品を研究し、国や文化が違っても「家族」「友情」「別れ」「成長」といったテーマが人々の心を打つことに着目しました。
本作では、タイの文化的背景を反映しつつも、世代間のギャップや家族の絆という普遍的なテーマを丁寧に描いています。

リメイク作品とともに進化するタイ映画
近年、タイ映画は国境を越えて評価を受けています。『フレンドゾーン』(ベトナム)や『すれ違いのダイアリーズ』(中国)など、他国でリメイクされた事例も登場。
トッサポンさんは「革新的なテーマと普遍的な感情」がタイ映画の国際的成功の鍵だと語り、今後も世界に届く作品を生み出せると期待を寄せました。

岩井俊二作品との出会いが原点
トッサポンさんが映画制作の道を志したきっかけは、岩井俊二監督の『ラブレター』と『花とアリス』でした。
「人生を変えるほど感動した」と振り返り、彼の作品がもたらした情緒や余韻が、自身の創作にも影響を与えていると明かしました。

タイトルに込めた思い
タイ語の原題『อาม่าอั๊วะ』(アーマーウア)は直訳すると「おばあちゃんの孫」。
中国系タイ人家庭を舞台に、孫と祖母の深い絆を描いています。
日本語版のタイトル『おばあちゃんと僕の約束』は、物語の中核をなす「約束」にフォーカスしたものです。

最後に観客のみなさんへ伝えたいこと
トッサポンさんは、観客に対して「映画を観て、高齢の家族のことを思い出してほしい。
そして彼らがどのように暮らし、どんなことを感じているのかを理解してもらえたら嬉しい」と語りました。
また、「映画を観に来てくれた皆さんに心から感謝しています」と温かい言葉で締めくくりました。

【作品概要】
タイトル:『おばあちゃんと僕の約束』(原題:Lahn Mah)
(英語タイトル:How to Make Millions before Grandma Dies)

監督・脚本:パット・ブーンニティパット(TV版「バッド・ジーニアス」)
脚本:トッサポン・ティップティンナコーン
製作:ワンルディー・ポンシティサック ジラ・マリクン
音楽:ジャイテープ・ラーロンジャイ
撮影:ブンヤヌット・グライントーン
編集:タマラット・スメートスパチョーク
出演:
プッティポン・アッサラッタナクン
ウサー・セームカム
サンヤー・クナーコン
サリンラット・トーマス
ポンサトーン・ジョンウィラート
トンタワン・タンティウェーチャクン

2024年/125分/タイ/原題:Lahn Mah/カラー/5.1ch/1.85:1
日本語字幕:小河恵理 後援:タイ国政府観光庁 配給:アンプラグド

『おばあちゃんと僕の約束』
6月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開

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映画『おばあちゃんと僕の約束』とは?

本作は、祖母と孫の関係を軸に、家族の愛と記憶を辿る感動作です。
バンコクの情緒ある風景を背景に、誰もが経験する“別れ”と“成長”を、静かで力強いタッチで描いています。
温かな記憶が紡ぐ物語は、国境を越えて人々の心に届く——。
『おばあちゃんと僕の約束』は、まさにそんな映画です。

日々の忙しさに追われ、つい後回しにしてしまいがちな「家族のこと」。
『おばあちゃんと僕の約束』は、そんな私たちに、静かに問いかけてきます。

「最後に祖父母に電話をしたのは、いつだっただろう?」
「一緒に過ごす時間が、どれほど貴重か、考えたことがあっただろうか?」

劇場という“特別な空間”でこの映画を観ることで、ただストーリーを追うだけではなく、自分自身の過去や家族との時間に思いを馳せる、かけがえのない体験となるはずです。

 

[文・構成/タイナウ編集部]

 

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