新旧問わず、音楽に親しんできたタイナウ編集部ワタナベが、未体験だったタイポップを聴いて綴る音楽鑑賞記。「サワディーワタナベ」は未知のタイポップへのサワディー=こんにちは のご挨拶です。
今回は、タイの新世代インディー2人組デュオ、Mirrr(マー)の楽曲に注目してみたいと思います。
Mirrrは以前タイナウでも来日時にインタビューが実現し、その音楽への真摯かつ素直な姿勢にこちらがうれしくなってしまったのを思い出します。
リハーサルと本番の間ながら、「時間は気にしないでいろいろ聞いてください!」とニコニコ対応してくれたのが印象的でした。
さて、紹介する楽曲。「1000REASONS」という楽曲のライブセッションバージョン違いです。
おもしろいのは、1つめは大人気グループ、BUSの中の5人=BUS5、2曲目は新進気鋭のR&B/インディーアーティスト、PUN(パン)とのコラボレーションというバージョン展開です。
同じ曲を別バージョンで聴く楽しさがたっぷり味わえます!
BUS5はMARCKRIS(マーククリス)、HEART(ハート)、JINWOOK(ジンウック)、PHUTATCHAI(プタッチャイ)、JUNGT(ジャンティー)の5名。
7名のBUS7での活動もあって、メンバー構成まで柔軟なのは活動の幅も広がるし、ファンはうれしいですよね。
さあ、曲です。
まず、Mirrrの楽曲のすごい所は、タイならではの感覚とモダンなポップミュージックの音づくりを自然に融合させている所です。
以前トムヤム亜久津氏に伺いましたが、タイには独自に発展して人気を博した伝統音楽、「モーラム」や歌謡曲として親しまれてきた「ルークトゥン」の存在があり、いまも健在です。
Mirrrの音楽は、音の質感はモダンでありながら、どこかタイならではのノスタルジックなメロディーの魅力をしっかり組み込んでいて、この融合がなかなかの離れ業というか発明というか、そうそうできないことだと思います。
でも、インタビューの時に伺えた彼らのスタンスからすると、おそらく彼らは自然に「いい歌を届けよう」と考えているだけなんだろうな、と思います。
BUS5のバージョンはボーカルの贅沢さが味わえますね。曲に合ったシャープで芯のある声で歌われています。ソロパートの後に厚みのある合唱が来るパートは壮観です!
PUNのバージョンも聴いていきましょう。
基本的な音づくりは同じですが、こちらの方がナーウのギターがグッと前に出てきてロックバラード感が強い印象です。
ナーウのギターは生で聴く機会がありましたが、とにかく音が太い!
ギターの音って、全く同じ機材、音の設定でも、弾く人によって線の太さが変わるんです。
この曲でナーウが使っているギターはストラトキャスター(ヴィンテージですね)という、シャキっと線が細い系のギターなのですが、そのギターでこの音が出せるのはものすごいことです。
ギターのすごさはフレーズの複雑さとか弾く速さよりも音の存在感です。
つい先日惜しまれつつ亡くなったレジェンドロックシンガー、オジー・オズボーン(元ブラック・サバス、通称暗黒のプリンス)は数々の名ギタリストを発掘して世に送り出したことでも有名ですが、彼がソロデビューする際、ギタリストのオーディションに立ち合い、チューニングをしている音を聴いただけで、「君に決めた」といって演奏も聴かずに決定したという逸話があります。
そのギタリストが、のちにギターヒーローとして語り継がれるランディー・ローズでした。
話が逸れました、ギターの話ばかりしちゃいましたが、こちらのバージョンも一番の魅力は歌でしょう。PUNの歌唱がいいですね。歌とラップの間のような存在感があって、都会的で音に自然に溶け込んでいます。
PUNのSpotifyもチェックしましたが、歌がうまいし声質がいいですね。やわらかいのに芯があって強い。アカペラでも相当遠くから聴こえそうな声の力があります。サウンドもエモーショナルで洗練されていて、これがセルフプロデュースとは…と驚きます。
こんな風に、多様な方向性のアーティストと同じ曲でコラボレーションできてしまうMirrrの懐の深さを感じるとともに、今後の活躍の幅への期待も生まれる視聴体験でした。
最後に、こんなカバーもありました。
人気俳優/シンガーのBillkin(ビウキン)による、Mirrrの大ヒット曲、「Nicotine」です。
これが5年前。
Mirrrが当時からオルタナインディーユニットの枠に収まらないポテンシャルを持っていたことがよくわかりますね。
かっこいいです。そしてビウキン、歌うまい…。
[文・構成/タイナウ編集部 サワディーワタナベ]