新旧問わず、音楽に親しんできたタイナウ編集部ワタナベが、未体験だったタイポップを聴いて綴る音楽鑑賞記。「サワディーワタナベ」は未知のタイポップへのサワディー=こんにちは のご挨拶です。
今回聴いたのは、タイの音楽シーンを20年以上にわたって牽引してきた国民的人気デュオ、Scrubbの「Her」です。
イントロから、ノスタルジックな映像が印象的です。
そしてこのMV、日本人にとってはさらに印象的。撮影地が日本の片田舎。
はじまってたった数秒で、この楽曲の表現したい質感が「すっ」と優しく伝わってきます。
先日紹介したYONLAPA(ヨンラパ)もそうでしたが、タイのおしゃれな楽曲はレトロな画質で表現することが多いですね。
さらに、旅する男性が手書きで革の手帳に文字を書き留め、フィルムカメラを構え、おだやかな表情でシャッターを切っています。
イントロや途中にも、彼が撮影したであろうフィルムライクな画質の静止画が散りばめられ、旅情を誘います。
楽曲の包むようなやさしいトーンとあいまって、自分も、どこか「自分が思う思い出の場所」を訪れているような旅情を疑似体験することができます。
だんだん、何の予定も立てずにどこか遠くに行ってふらっと歩きたくなるような感じ。
さて、サウンドを中心に語っていきます。
Scrubbの音はどの曲を聴いても、本当にていねいで玄人的。しかもどこかをむやみに尖らせたりこれ見よがしにアピールしたり、といったことがない、「大人の音づくり」というイメージです。
イントロのドラムのざらっとした質感。
これを聴いただけで、「あ、いい曲/レベル高い曲確定!」という感じがします。
淡々としたドラムトラックに聴こえますが、すごく時間をかけて、手塩にかけて仕上げたサウンドではないかな、と思います。
これに、日本人が聴いてもどこか懐かしい楽曲テーマメロディが入り、映像では桜の風景が広がる。この音と映像のシンクロの気持ちよさ。
桜の淡いピンクとデニムのブルーの対比も俳句的に美しい。
ムアイのボーカルが入ると、もう一気にScrubbの世界です!
Aメロ、歌い出しを低いトーンから、それもいい声でスタートするのは相当に難しいのではないでしょうか。
ボーカルの力量が試される、逆に言うと技術がモノをいう難関イントロ。
うまいなあ…。
歌と音は完全に寄り添いあっていて、「どうだ!」っていうもり上がりは敢えてつくらず、でも後半はボーカルのハーモニーや音の重ね方で、少しずつ厚みが増していく。
転調も、おそらくなかなかチャレンジな進行を取り入れているのに全く違和感もドヤ感もなく、美しく溶け込んでいます。
そして、曲が終わる時のすがすがしいもの寂しさと、曲が終わった後のなんとも言えない余韻。
ああ、まだこのあてのないノスタルジーひとり旅を続けていたい…。
そんなことをふわふわと考えて、「もう一回見る」ボタンを押してしまう。
目的がないぶらり旅には、ぜひこの曲を携えていきたい。
またいい曲に出会えました。
最後に、このScrubb、個人的には、日本でいうと名曲「エイリアンズ」で有名な「キリンジ/KIRINJI」のような存在なんじゃないかと思えるんですよね。
そう捉えると自分としてはしっくりくるというか。
勝手にピックアップした共通点はこういう所です。
・男性デュオでスタート(キリンジは一時期メンバー11人とかだったりもしましたが…)
・ミュージシャン/音楽関係にファンが多い(ミュージシャンズミュージシャンという存在ですね)
・流行歌/歌謡曲の範疇にも入るキャッチーなメロディー
・外国の音楽への造詣が深いが、自国の音楽と絶妙にマッチさせるセンスとバランス感覚
・音楽的にマニアックなのに、大ヒット曲も持っている
・執念すら感じるこだわりのサウンドづくり
・たまにびっくりするコラボを実施する(ScrubbはフィリピンのBen&Ben、インドネシアのPamungkasら国外アーティストと新鮮なコラボをしていたり、キリンジは、少し前の作品では、韓国のアーティスト、YonYonをボーカル/ラップに迎えたすばらしい楽曲を発表していました)
そして最後に、なんとこの2組、現在どちらもユニバーサルミュージック所属!(たまたまか…)
今後、どんな楽曲、パフォーマンスを届けてくれるか本当に楽しみなアーティストです!
[文・構成/タイナウ編集部 サワディーワタナベ]